どんな研究?
スマホやパソコンなど多くの機器に搭載されている現代の日常生活においてなくてはならないデバイスのひとつに、不揮発性メモリがあります。不揮発性メモリとは、電源が切れてもデータを保持できる性質を持っています。
このような不揮発性メモリ技術の一角として、強誘電体メモリがあります。強誘電体メモリは、超低消費電力で高速動作可能といった優れた特性を有しており、今後も爆発的に増加していく情報通信機器の高性能化や低消費電力化に大きく寄与することが期待されています。
強誘電体とは、自発分極と呼ばれる、外部からの電圧の印加によって反転が可能な電気分極を有する材料のことです。半導体メモリデバイスの製造プロセスでは熱処理が行われるのですが、その際に材料が劣化してしまうため、劣化を防ぐための保護膜の製造が必須でした。ところが、この保護膜製造の工程は複雑であり、また高コストであることがこれまでの課題とされてきました。
東京科学大学(Scinece Tokyo)物質理工学院 材料系 舟窪浩教授を中心とした研究グループは、この課題の克服に向けて、半導体メモリデバイスの製造プロセスで行われる熱処理に対する、より耐久性の高い強誘電体材料について研究を進めていました。
ここが重要
従来のペロブスカイト構造に代表される複合酸化物強誘電体(Pb(Zr,Ti)O3やSrBi2TaO7)や現在の研究で主流となっている酸化ハフニウム系強誘電体は、熱処理によって強誘電性の劣化があることが報告されてきました。
しかし、舟窪教授らの研究で焦点をあてた窒化物強誘電体であるスカンジウムアルミニウム窒化物((Al,Sc)N)では、600℃までの処理温度において強誘電特性の劣化がほとんど認められないことが明らかになりました。つまり、スカンジウムアルミニウム窒化物を利用すれば、熱処理による劣化防止のための保護膜が不要になります。その結果、製造工程が単純化し、また大幅なコスト削減が可能になることが期待されています。
今後の展望
スカンジウムアルミニウム窒化物は、20万分の1ミリメートル(5 nm)まで薄膜化しても強誘電性の特性の劣化がないことがすでに確認されています。このような大きな強誘電性を生かすことによって、新たなメモリの開発と実用化が視野に入りつつあります。これまでの磁性体を凌駕するような性能をもつメモリの誕生が期待されています。
研究者のひとこと
私たちの研究は、数多くの挑戦と努力の末に、半導体製造プロセスにおいて、強誘電極材料に保護膜を施すことなく、600℃となる水素含有ガスによる熱処理工程を可能となることを見出しました。この成果により、半導体製造プロセスの効率化はもちろん、低コスト低環境負荷に一歩近づくことができます。
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