東京科学大学(Science Tokyo)データサイエンス・AI全学教育機構は2月27日、東京科学大学蔵前会館1階くらまえホールにて「データサイエンス・AI全学教育機構シンポジウム2026~企業との共創によるDS・AI人材育成の新展開~」をオンラインとのハイブリッドで開催しました。
産官学および本学や他大学の学生を含む多方面から参加者が集まり、会場参加者は72名、オンライン参加者は73人、計145人の参加がありました。
産学共創が拓くDS・AI人材育成
2025年12月に内閣府によって策定されたAI基本計画に続き、経済産業省が2026年1月に公表した2040年の就業構造推計では、AIやロボットを活用する人材が339万人不足する一方、事務職は437万人の余剰が見込まれるとされています。AI人材の育成は、もはや個別の大学や企業の努力にとどまらず、国家的な課題となっています。来賓挨拶に立った文部科学省高等教育局の星幹崇企画官は、AI戦略2019に基づくリテラシーレベル50万人・応用基礎レベル25万人の人材育成目標がまさにこの日達成されたことを報告するとともに、2月13日に発表された高校改革グランドデザインにおける理数的素養の強化や、社会人リスキリングの重要性に言及しました。こうした政策的背景のもと、本シンポジウムでは「企業との共創」を軸に、DS・AI人材育成の具体的な実践事例とその展望を議論しました。
講演1 「名古屋大学における産学連携によるデータ課題PBL」
最初の講演は、名古屋大学の中岩浩巳特任教授による産学連携PBL(課題解決型学習)の実践報告でした。中岩氏は、AI時代のデータサイエンス教育において重要な力として「問いを立てる力」「結果を検証する力」「判断する力」の3つを挙げました。生成AIがコード生成やデータ分析を代行できる時代だからこそ、何を分析すべきかを見極め、結果の妥当性を判断できる人材が求められます。名古屋大学では2019年度より「実践データサイエンティスト育成プログラム」を運営し、企業や自治体から課題の提供を受け、社会人受講者と大学院生が共にPBLに取り組んでいます。博士後期課程の学生が受講者をきめ細かく支援する体制や、修了生コミュニティの運営など、持続可能な人材エコシステムの構築が特徴的です。
講演2 「広島大学における産学連携DX教育の現状と課題」
続いて、広島大学の土肥正教授による講演が行われました。2018年に国立大学で初めて開設された「情報科学部」は、定員を80名から200名へと大幅に拡充しています。教育の特色は、1年次の教養ゼミから4年次のコーオプ教育まで、4段階にわたるシームレスな産学連携実践科目の体系にあります。中でも海外の大学をモデルとしたコーオプ教育は、国立大学のDX分野での中でも特筆すべき取組みです。また、ひろしまDX人材育成奨学金(県内就職でDX業務に従事した場合に返済免除)や、企業との共同開発など、地域産業との連携を重視した多角的な施策も紹介されました。
事例紹介 「東京科学大学における新しい社会人教育プログラムへの取り組み」
休憩を挟み、東京科学大学の三宅美博特任教授による事例紹介が行われました。三宅氏は、8年前に「共同研究はあるのに共同教育がないのは不思議だ」という問題意識から出発した、「基盤力」と「構想力」の2本柱からなる、データサイエンス・AI全学教育機構による産学共創教育の構想を紹介しました。基盤力の育成では、大学の実際の授業を企業向けにオンデマンド配信しており、23社が参加しています。構想力の育成では、企業が「答えの見つかっていない課題」を持ち込み、企業の「現場の視点」、教員の「専門性の視点」、学生の「未来の視点」という3つの視点を掛け合わせたチームで取り組む共創グループワークを今年度より開始し、10社が参加しました。参加学生は博士課程が中心で、議論のレベルの高さが特徴的でした。
引き続き、共創グループワークに参加した企業からの事例報告が行われました。建設系企業の担当者は、犬型ロボットとLLM(大規模言語モデル)を組み合わせた現場支援のPoC(概念実証)をわずか2日間で構築した経験を紹介し、学生との共創がもたらす発想の速度に驚いたと語りました。またデータ分析系企業の担当者は、仮想スーパーマーケットの売上分析課題を題材に、DS・AI専門外の学生が生成AIを駆使しながら柔軟な発想で取り組む姿が印象的であったと述べました。
パネルディスカッション
講演終了後、3名の講演者に加え、産業界から2名、本学学生3名、モデレーターである東京科学大学の市川類特任教授の計9名によるパネルディスカッションが行われました。「DS・AI人材育成」については、企業から「AIコーディングツールの登場でエントリーレベルのエンジニア就職は困難になりつつありる。概念理解や抽象化の能力がより重要になる」との指摘がありました。学生からは「DS・AI専門外でもデータを活用できる人材が必要であり、全学的なDS・AI教育に意義がある」との意見や、「ユースケースを創出できる人材、すなわち技術を使う場面を自ら作れる人材が重要だ」との意見が挙がりました。
「企業との共創」については、学生からは、専門外の学生もブレインストーミングで意見を出せる環境や、結果を出すだけでなく、なぜそうなるかを説明する力の重要性について意見が述べられました。企業からは「DS・AI専門外の学生が生成AIを使いこなす姿は、企業側のリスキリングへの刺激にもなる。学ぶ側に戻れる場としての大学の価値を実感した」との声がありました。中岩氏は今後の課題として、「一部の大学だけでなく全国展開しなければならない」と述べ、企業からは「実りあるグループワークを行うためにはより多くの時間が必要である」との指摘がありました。
参加者からのアンケートでは、「各大学の事例紹介や参加学生の声など具体的な取組み内容などを拝聴でき大変参考になりました」「学生と社会人と教員とで共創することにより、社会実装における壁を乗り越える力、チャレンジ心が湧き出てくるように思いました」「DS・AI についての先進的な取り組みを紹介していただき、たいへん参考になりました」などの感想が寄せられました。
シンポジウム終了後は、会場隣のロイアルブルーホールにおいて、学生、企業関係者を含む参加者による懇親会を開き、相互の交流を深めました。