Total Health Design VIによる国際卓越研究大学認定記念シンポジウムを開催
国際的な研究連携と科学の未来像を議論する場に
東京科学大学(Science Tokyo)は、2月19日、「国際卓越研究大学認定記念シンポジウム」を湯島キャンパスM&Dタワーで開催しました。
本シンポジウムは、臨床医学から基礎医学、理工学系から医歯学系と分野を幅広く横断しながら国際的なエコシステム形成を目的として、Science Tokyoの新たな研究体制「Visionary Initiatives(VI:ビジョナリーイニシアティブ)」の一つ「Total Health Design(科学はすべての人の健康と福祉のために)」のプログラムディレクター(PD)を務める医歯学総合研究科 包括病理学分野の石川文彦教授をはじめ、同VIのメンバーが中心となり、他分野の研究者が協働して企画しました。
米国およびドイツから、世界をリードする4人の研究者と投資家が本学を訪れ、がん、老化、代謝、免疫に関わる最先端の研究を、開発から応用へと推進して臨床応用や産業化に導く講演が行われました。国際的な研究連携と科学の未来像を議論する場として、国際卓越研究大学に認定されたことへの期待も含め、会場には、定員を超える180人余りの学生、研究者、医師・歯科医師、メディア関係者など多くの方が集い、熱気あふれるシンポジウムとなりました。
国際卓越研究大学認定に対する祝意と期待
シンポジウムに先立ち、今回招聘した4人の講演者に対して、本学のビジョン「善き未来」を国際的に実現していく上での、産業・投資分野との協働について伝えました。
講演者であるマーシャ・ハイギス氏(ハーバード大学 教授)、ケビン・ハイギス氏(ハーバード大学 教授)、イッシ・ローゼン博士(グーグル・ベンチャーズ ジェネラルパートナー)、アンドレアス・トランプ氏(ドイツがん研究センター 教授)の4氏は、本学が、長年かけて培った基礎科学の強さをさらに深化させながら、社会や人々の期待と願いに対してグローバルに応えるためには、大学・政府・産業の連携が重要であることなど、それぞれ異なる専門分野の知見や観点からアドバイスしました。どの国も地域も個別に健康上の問題を解決することは困難であり、世界で共通して取り組むべきであることも、Science Tokyoが世界各国の機関と連携すべき理由の一つであることを確認し合いました。
国際卓越研究大学の制度を築いた日本の国としての決断や、本学が認定されたインパクトについて、4氏は産学で世界をリードする立場から賛意を示しました。国際卓越研究大学としての本学の挑戦を支えるVIは、トップダウンとボトムアップの双方向からアイデアを生みだすものであり、それが連帯感を生むことが重要であるという認識も共有しました。本学では医歯学系と理工学系の研究者や学生が分野を大きく超えて交流し、すでに複数のコラボレーションが進捗を見せています。このことについても4氏は、大学統合という大きなモメンタムと、VIという特徴あるプラットフォーム形成が良い影響を及ぼしていると指摘し、本学の挑戦を国際的に後押しする計画について議論しました。
学生、若手研究者による発表
学部生、大学院生、若手研究者の計9人が、それぞれの研究における目的と成果に加えて、国際的な連携を見据えて挑戦したいことを発表しました。
大学院生の桐野桜さん(医歯学総合研究科消化器病態学専攻 博士課程4年)は、大学院で研究した消化管の再生について、基礎・応用両面に役立つ優れた成果を発表しました。解剖的・機能的に分化の進んだ腸上皮細胞が、腸の炎症などの刺激に対していかなるメカニズムで 幹細胞としての機能を再び獲得し消化管上皮細胞を再生するかを研究し、幹細胞研究者を含む世界のトップサイエンティストが予想していたよりもはるかに柔軟で高い能力を持つことを突き止めました。炎症性腸疾患は、患者のQOLを低下させ、一部では悪性疾患へ発展することもあります。近い将来における治療応用が期待される研究発表となりました。
講演者の4氏は、若手研究者ならびに学生の活動や思考が卓越したものであると高く評価し賛辞を述べるとともに、さらなる国際的な活躍と貢献を期待して助言を行いました。これから海外へ羽ばたこうとする若手研究者にとって、4氏の存在が助けになるであろうことを参加者全員が心強く感じました。このことも、今回の研究発表の大きな意義となりました。
国際卓越研究大学認定記念シンポジウム
続いて記念シンポジウムを開催しました。Science Tokyoの波多野理事・副学長のあいさつとともに開会し、以下の4講演が行われました。
講演1
マーシャ・ハイギス教授(ハーバード大学)
がん・老化・免疫をつなぐメカニズムを探る
世界的に進む高齢化に伴う疾患の多様化について、最新の研究成果を交えて講演しました。年齢を重ねるとともに変わっていく代謝の問題は、私たち個体としても発生しますが、組織や細胞、さらに遺伝子レベルでも変化します。代謝物という捉えづらい物を、最新の測定機器を用いて網羅的かつ定量的に計測し、がんの発症や増殖という病態と関連付けることの重要性を紹介しました。がんが無秩序な速度で増え続ける性質を保つためのエネルギーは何かを明らかにして、それを治療へと展開することができるか、未来の医療につながる講演となりました。
講演2
ケビン・ハイギス教授(ハーバード大学)
がん遺伝子 KRASの組織特異性~多様ながんにおける役割
がん遺伝子の中でも早くから知られているものに、KRASと呼ばれる遺伝子があります。このKRASに発生する異常が、どの組織でも起きるのではなく、膵臓がんをはじめいくつかの組織で発生するがん特異的であることに着眼し、がん発生のメカニズムと治療戦略について講演しました。
KRASの遺伝子異常が起きている複数の組織において、KRAS異常と共にがん化に導くイベントが炎症なのか、それとも他の遺伝子異常の蓄積なのかを解析することで、新たな治療標的を探索する試みも紹介しました。KRAS遺伝子異常が見られない肝臓がんでは、MYCと呼ばれる遺伝子とKRAS異常が共存すると、肝臓組織でさえも悪性腫瘍が発生することを見出しました。この現象を逆手に取れば、KRASに加えてMYCという遺伝子に発生する異常を含めて治療することにより、KRASで悪性化する肺がんなどを根治に導く可能性を高められるという展望を述べました。
講演3
イッシ・ローゼン博士(グーグル・ベンチャーズ)
パートナーシップと事業化による研究成果の社会実装
ローゼン博士は、マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学のトップサイエンティストが集まるブロード研究所(Broad Institute:MITとハーバード大学が共同運営する研究機関)における、研究成果の社会実装、ビジネスパートナーとの契約、そのために必要な研究への助言などの経験を語りました。
米国ボストンにおけるMIT、ハーバード大学、ブロード研究所による研究と開発、産業の連携は、まさに本学が歩むことのできる一つの可能性があることが示されました。日本における白血病研究についても、ボストンでスタートアップを立ち上げ研究を後押しした経験を紹介し、「国籍を問わず=国境を超えて、世界の深刻な健康問題を解決するために、産業界からも支援することが重要である」と述べて講演を締めくくりました。
講演4
アンドレアス・トランプ教授(ドイツがん研究センター)
白血病幹細胞から膵臓がん発生におけるニューロンの関わり
白血病という血液がんと、膵臓がんという固形がん。予後が悪い腫瘍とされる両者をどのように研究するかについて紹介しました。白血病では、細胞が生存しようとするために重要なタンパクを3つ見いだし、その3つの関係性と白血病細胞に発生する遺伝子異常の結びつきを解明することにより、個別最適化治療 (precision medicine)を提案しました。膵臓がんの研究では、膵組織に存在する神経細胞と免疫細胞、がん細胞の3者が互いに作用しあって、がんが発生し、悪化することを見いだしました。遺伝子解析、イメージング技術開発など、多様な視点と複数のテクノロジーを駆使してこそ疾患の本体が見えてくると語り、若手研究者の探究心を鼓舞する姿が印象的でした。
ポスター発表と懇親会
講演会の後はファカルティーラウンジに場所を移し、ポスター発表を行いました。23人の若手研究者が研究成果を発表し、講演を終えたばかりの4氏がアドバイスをする形式で140人の参加者と共に議論と食事を楽しみました。
大竹理事長をはじめ大学執行部も参加し、若手研究者や学生と共に善き未来を見据えて語り合いました。講演者の研究室や大学を訪れたいという希望を伝える学生もおり、講演者4氏もまた、そうした若手研究者らの強い意欲に対して温かい言葉と共に支援を約束しました。これを機に、国際的な連携がさらに強固になることが期待されます。
4月1日、Science Tokyoは国際卓越研究大学としての第一歩を踏み出しました。本シンポジウムはそれを見据えて、国境、世代、分野の全てを超えて研究者が集い、熱気にあふれる場となりました。