頭部外傷患者の救急搬送前AIトリアージシステムを加賀市と連携し実証実験をスタート

2025年12月12日 公開

東京科学大学(Science Tokyo)大学院医歯学総合研究科 脳神経機能外科学分野(東京科学大学病院 脳神経外科)阿部大数助教・稲次基希准教授、東京科学大学 医療・創薬イノベーション教育開発機構長谷武志特任教授のチームは、これまでの研究成果をもとに「救急医療における搬送前AIトリアージシステム」を開発しました。これは、本学が2023年度と2024年度に採択された経済産業省AKATSUKIプロジェクト「医療DXイノベーション人材育成プログラム」においてアプリ制作に取り組んだもので、その社会実装に向けて、内閣府が国家戦略特区に指定する加賀市、加賀市医療センター、加賀市消防本部と協働し、12月15日から実証実験を開始します。

実装研究の概要

社会的背景

頭部外傷は本邦で年間30万人程度がかかる非常に頻度の高い疾患です。生活習慣病などに比べ小児をはじめとした若年層の患者も少なくなく、特に若年者では主たる死因の一つとなっています。

本邦では、2002年の外傷初期診療ガイドライン(JATEC)整備により、いわゆる「防ぎ得た外傷死」の数は全体としては確実に減少してきた一方で、重症頭部外傷患者の予後の改善は限定的で、死亡や重篤な後遺症を負うケースは減少していません。その要因として、重症例では、有効な治療までの時間猶予が非常に短く、搬送遅延が致命的となること、および、初めは軽症であったにも関わらず経時的に重症化するケースがあることが挙げられます。一次搬送先の病院で治療対応が困難であると診断されると、他院へ転院搬送されますが、その間にさらに予後は悪化します。

したがって、頭部外傷患者の病態を、病院の診断情報を得る前に受傷現場の情報のみで判定し、重症度に合わせて治療対応可能な施設を適時に選択して搬送できれば、頭部外傷患者の予後の改善が期待されます。

技術概要

救急隊が受傷現場で収集し得る患者の傷病情報のみを用い、頭部外傷患者における外傷性頭蓋内出血の有無を予測する機械学習モデル(eXtreme Gradient Boosting: XGBoostアルゴリズムを基盤としたモデル)を開発し、感度・特異度ともに75%程度で予測が可能であることを確認しました(論文情報)。その後さらに、重症度の高い患者の予測機能を追加し、タブレットやスマートフォンにて使用可能なwebアプリケーションを開発しました。

提案する救急AIトリアージシステム

論文情報

掲載誌:
JAMA Network Open
タイトル:
A Prehospital Triage System to Detect Traumatic Intracranial Hemorrhage Using Machine Learning Algorithms
著者:
Abe D, Inaji M, Hase T, Takahashi S, Sakai R, Ayabe F, Tanaka Y, Otomo Y, Maehara T
所属:
東京科学大学 脳神経外科

研究代表者プロフィール

阿部 大数 Daisu Abe

東京科学大学病院 脳神経外科 助教
研究分野:頭部外傷、脳腫瘍、AI、データサイエンス

共同研究者プロフィール

稲次 基希 Motoki Inaji

東京科学大学病院 脳神経外科 准教授
研究分野:頭部外傷、てんかん、脳血管障害、脳核医学

長谷 武志 Takeshi Hase

東京科学大学 医療・創薬イノベーション教育開発機構 特任教授
研究分野:医療情報学、創薬科学、AI、データサイエンス

北井 隆平 Ryuhei Kitai

加賀市医療センター 病院長
研究分野:脳神経外科、医療機器開発、災害医療

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東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 脳神経機能外科学分野

助教 阿部 大数

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東京科学大学 総務企画部 広報課