テレビやスマートフォンに使われている有機ELディスプレイの大幅な省エネルギー化の実現をめざす

2024年10月1日 公開

世界最小*の電圧で発光する青色有機ELがさらに進化

どんな研究?

有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)は、鮮やかな色再現性や高いコントラストなどの特徴により、テレビやスマートフォンのディスプレイなどで広く使われています。有機ELは光の三原色である赤、緑、青それぞれの色の素子を自ら発光させることで鮮やかな色を再現しますが、そのうちの青色を発光させるには多くのエネルギーが必要で、有機ELを採用する機器の消費電力が大きくなる最大の要因となっています。

通常、青色有機ELの発光には4 V程度の電圧が必要ですが、東京科学大学(Scinece Tokyo) 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 伊澤誠一郎准教授らのグループは、昨年、独自の発光原理を用いて開発したアップコンバージョン**有機EL(UC-OLED)により、わずか乾電池(1.5 V)1本という世界最小の電圧で発光する青色有機ELの開発に成功しました。

三原色の中で消費電力に占める割合が最も大きい青色素子を低電圧で発光できるため、テレビやスマートフォンなど有機ELを使ったディスプレイ機器の大幅な省エネルギー化につながることが期待できます。

乾電池(1.5 V)1本で青色有機ELを光らせている写真

その一方で、UC-OLED内部の詳細なしくみ・電子の動きについてはまだ明らかにされていませんでした。今後UC-OLEDが社会で広く使われるために必要な「さらに効率のよい低い電圧での発光」を可能とするには、UC-OLEDの材料をどう選べばよいか、という指針が必要となっていました。

ここが重要

今回、伊澤准教授らは45通りもの材料の組み合わせにおけるUC-OLED内部の電子の動きの違いを解析し、適切な材料を組み合わせることで、エネルギーの損失なく、効率よく電子が移動することを実証しました。この発見は、超低電圧で発光する青色有機ELに似たメカニズムを用いる「光アップコンバージョン***」という新しいエネルギー技術の材料選択にも応用できるため、エネルギーの利用効率が高い社会の実現に貢献すると言えるでしょう。

今後の展望

この超低電圧な青色有機EL(UC-OLED)が今後広くディスプレイ機器に使われるよう、色の再現性が高い青色の発光を低電圧での実現を目指します。また、発光色を白色化することにより、超低電圧で光る白色有機EL照明の開発が可能となります。

研究者のひとこと

UC-OLEDは従来有機ELと比較して小さな電圧で光らせられる、素子寿命が長いなど多くの利点があるため、次世代のディスプレイ技術として注目されています。今回の知見をもとに材料の探索を続け、発光の効率をさらに向上させることで、従来の有機ELディスプレイよりも大幅な省エネルギー化・長寿命化の実現を目指していきます。

伊澤誠一郎准教授

注釈
*世界最小の電圧で発光:開発した有機ELは、462 nmの青色発光が1.26 Vから認められ、1.97 Vでスマートフォンディスプレイ程度の発光輝度に到達した。このような超低電圧での青色発光は2014年ノーベル賞を受賞した青色発光ダイオードでも不可能なため、有機・無機材料、双方を含めても世界最小電圧で光る青色発光素子と言える。(2023年9月21日時点)
**アップコンバージョン: エネルギーの低い励起状態からエネルギーの高い励起状態を作り出すプロセス。
***光アップコンバージョン: 長波長(低エネルギー)の光から短波長(高エネルギー)の光に変換する技術。未利用の近赤外光の有効活用や生体イメージングへの応用が期待されている。

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